第5話:受験生のために (2)

先月に引き続き、中高生のための受験勉強の仕方をとりあげます。

 
LECTURE 1:中学校の社会科(歴史)分野は、どうやって勉強すればよいのだろう?

中学校の歴史分野というのは、日本史や世界史が混じり合ったものでなんだか今ひとつと思っている人も多いはず。そこで、上手に勉強するにはどうすればいいのかを考えました。
 
1. まず、日本の歴史をきちんと勉強する。もちろん、原始・古代から近現代までを。
2. 次に古代の外交(朝鮮や中国との関係など)や、中世の外交(中国=明や琉球との関係)、近世の外交(ヨーロッパ人の来航、鎖国している間のオランダ・中国との関係など)、近現代の外交(外国船の来航、中国・朝鮮との関係、第一次世界大戦、戦後の国際関係など)をつかむ。
 
 つまり、日本史の勉強を軸にして外国との交流などを付け加えていくやり方をとれば少しははっきりするのじゃないか、と思うのですが。

 しかも、できれば地図でおおよその関係をつかむ必要があると思います。といって、地理分野の学習ではありませんから、教科書に出ているくらいのごく簡単な位置関係がわかればよいと思います。

 近年の高校入試もだんだんと考えられてきて、教科書に載っている図版や地図が、図版問題や写真問題として出題されるようになりました。例えば、江戸時代の農具の図とか、杉田玄白らが訳した『解体新書』の図などを利用した問題などは、もうずいぶん前から出題されていますから、こういうところにも注意して下さい。

 

 特に上に記した2.の外交=世界史の部分は、地理・歴史を混ぜた問題として出
題されたり、さらに公民を混ぜた問題として出題されることが多いようです。

 こうした融合問題は実は問題を作る人もしんどいのですが、受験生の社会科の学力を知るには都合がよい問題なのです。どういうことかというと、地理は地理、歴史は歴史というような、バラバラな知識をきちんと整理して理解できているか、これが問えるのです。逆に君たちからすれば、難しい問題といえるでしょう。

 でも、考えてみて下さい。それぞれの知識はバラバラだったらあまり意味がありません。人間の知識はいくつかのまとまりがあって初めて役立つのです。ですから、こういう問題こそが基礎知識なのです。それこそが本当に役立つ知識だと思えるのです。

 もちろん、地理・歴史・公民の三分野融合問題だからといってきちんとしたテーマのある問題ばかりが出題されるとは限りません。8つくらい解答させる問題があって、1〜2番の二つの空欄は地理の用語を、3〜5番の空欄は歴史の用語を、6〜8番は公民の用語を入れさせるという問題もあります。こういう形式の問題は相互の関連性があまりなく、断片的な知識を問うだけですから、頭の切り替えがはやい人は難しいものじゃありません。要するに三分野のどれをきいているかがわかればしまいです。 


 それとは異なり、あるテーマを設定し、三分野をそれぞれきちんと問う問題は難しいでしょう。
 私が作ったもので、よい問題といえるかどうかはわかりませんが、三分野を融合した問題を以下に示しますので挑戦してみて下さい。 


 
アメリカに関する次の問題文を読んで、問1〜問8に答えなさい。(なお、同じ番号の空欄には同じ語句が入ります。)
 

 1776年(  1  )らは、(2)独立宣言を発表した。その後完全な独立を勝ち取るまでには時間がかかったが、7年後の1783年ようやく(  3  )から独立することができた。もともとアメリカの地には、インディアンや(4)イヌイット(エスキモー)が先住民として住んでいたが、(  3  )をはじめとするヨーロッパからの移民が中心となり国を作った歴史をもっている。

 現在のアメリカは、世界的な大企業を有する工業国として知られる一方、日本の約80倍の農業用地を利用し、(5)それぞれの土地の自然条件を生かした農業生産を行っている。例えば、中央平原に広がる(  6  )地帯はアメリカ農業の中心で、世界の3分の1の生産量を誇っている。

 ところで、アメリカ政治制度は、かつて本国だった(  3  )が(7)議院内閣制を採用しているのに対し、(  8  )を中心に政治を行う国としても知られる。(  8  )の任期は4年で、再選は認められているが、三選はされないことになっている。そこで現在二期目の(  8  )に替わる候補者が出て、選挙活動を行っている。

  

問1 空欄(  1  )に入る人物を次の1〜4の中から選びなさい。

 1.ジョン=ロック  2.トマス=ジェファーソン  3.ラファイエット  4.クロムウエル

 
問2 下線部(2)には以下に示すような文章がある。これを読んで問いに答えなさい。

「これらの権利を確保するために、人々の間に政府が設けられ、その正当な権力は人民の同意にもとづくこと」

この文章に示された考え方を何というか。次の1〜4から選びなさい。

 1.社会契約論  2.天賦人権論  3.基本的人権  4.治外法権

 
問3 空欄(  3  )に入る国名を次の1〜4の中から選びなさい。

 1.フランス  2.ドイツ  3.イギリス  4.イタリア

 
問4 下線部(4)の人々に関する説明として誤っているものを、次の1〜4の中から選びなさい。

1. 彼らは現在、北極海周辺のカナダ・アラスカなどに住んでいる。
2. 彼らが現在住んでいる北極海は寒い気候のために開発が遅れており、依然として伝統的な生活を続けている。
3. 彼らが住んでいる地方では作物を作ることができないので、魚をとったり、狩りをして暮らしてきた。
4. 彼らは、皮や毛皮を動物の繊維でぬって衣服を作り、きびしい寒さから体を守っている。
 
問5 下線部(5)のような生産形態を何というか。漢字4字で記しなさい。
 
問6 空欄(  6  )に適する語句を次の1〜4の中から選びなさい。

 1.綿 花  2.大 豆  3.野 菜  4.とうもろこし
 
問7 下線部(7)とは、以下の説明文に示されている内容である。この説明文の空欄(  a  )に入る語句を漢字2字で記しなさい。

<説明文>
 議院内閣制とは、内閣が(  a  )の信任の下に成立し、(  a  )に対して連帯して責任を負う制度である。
 
問8 空欄(  8  )に適する語句を次の1〜4の中から選びなさい。

 1.首 相  2.大統領  3.大 臣  4.裁判官

 

 
アメリカだけでこういう問題が出題できます。知識はバラバラでなく、つながないといけません。でも、まずは教科書をきちんと読むことからはじめて下さい。

勉強の仕方は先月号でも紹介してありますから見て下さい。



上記問題の解答

 問1:2  問2:1  問3:3  問4:2  問5:適地適作  問6:4  問7:国会  問8:2





LECTURE 2:歴史的発見が入試問題になるまで
 
 日本史の新しい発見は、こんな風に入試問題になります。

 日本史では、このところずっといろいろな発見がなされてきました。例えば少し古くなりますが、青森県の三内丸山遺跡の発掘調査によって、私たちがこれまで考えていた縄文時代のイメージが大きく変わってしまいました。

 また、正確な日付は忘れてしまいましたが、約1ヶ月程前でしたか、石川県津幡町の加茂遺跡から、古代の高札が発掘され、話題になりました。

 大学の入試問題は、おそらくどこの大学でもそうでしょうが、10月の初旬までには作成されることになりますから、この高札が取り上げられる可能性は低いと思いますが、絶対に取り上げられなくもないのです。

 新聞にも載った高札を利用して大学入試を考えてみたいと思います。実際に問題も作ってみましたからチャレンジして下さい。


 今、この高札に関することを紹介しておきましょう。
 石川県津幡町加茂遺跡から出土した高札は、850年前後のものだそうです。ということは、平安時代のはじめということになります。

 時の政府・加賀国の命を受け、郡司が配下の深見村の郷長・駅長・刀禰らを通じて8ヶ条に渡る禁制を下したものがこの高札なのです。その内容を簡単に記すと次のようになります。

1. 農民は、朝4時前に田に行き、夜8時以降に家に帰れ。
2. 農民は、勝手気ままに魚や酒を飲み食いしないこと。
3. 溝や堰(水の調節口)を作らない農民を禁止する。
4. 5月30日以前に田植えを終え、報告すること。
5. 村に隠れ潜む人間を捜し出し捕らえよ。
6. 桑を植え、養蚕をしない農民を禁止する。
7. 村の中で酒を飲んで酔っぱらい、乱れる農民を禁止する。
8. 正しく農業を行い、村の長になりそうな農民の名前を報告せよ。

 
おおよそこういうことでしょうか。郡司は配下の役人に、この高札を農民に読み聞かせ、内容を説明して決まりを守り農業を行わせ、もし従わない場合は罰するよう命じています。


 この高札の内容自身も大変興味深いのですが、こうした情報伝達のしくみがきちんと整備されていたことに注意が必要でしょう。

 さあ、ここからが、入試問題への入口です。まず、内容です。何か気づきませんか?江戸時代にも同様の高札があったことを。そうです、例の「慶安の触書」とよばれているものです。

 古代でも江戸時代と同様に、農民の支配を行っていたことがわかります。
 そこから、農民支配や、農業に関する出題も可能です。特に、この高札を利用して古代の農民支配に関する史料問題が出題できますね。
 もう一つは情報伝達のしくみに関する出題です。センター試験は、これまで何度か交通・通信に関するテーマ史を出題してきました。あまりおなじみでない人もいるでしょうから、まず情報伝達に関する問題の実例を示しておきましょう。


 
96年センター追試験 【日本史B】第1問

B コミュニケーションを情報の伝達としてみれば、直接人間が言葉をかわさなくとも、様々な手段を通して行うことができる。その手段の代表的なものは文字である。

問4 次のページの史料 a・b に関連して述べた文として誤っているものを、次の1〜4のうちから一つ選べ。

* aには平城京出土の木簡の写真があり、「隠岐国海部郡佐吉郷日下部止々利 調鮑六斤 養老七年」の読み下し文が掲載され、bには「紀伊国阿弖河荘民が荘園領主んび出した訴状」の写真が掲載されている。

1. aは、薄い板に文字を記した木簡の一つで、このような木簡は宮都や地方官衙(かんが)などの遺跡から大量に出土している。
2. aのような木簡は、都に運ばれた調や雑徭などの荷札として使用されたもので、納税者の本籍地や名前、品名などが記されている。
3. bに見られるような片仮名は、漢字の一部を表音文字として用いたことに始まる。
4. bのような訴状が書かれたことは、荘民の中にも文字を理解する人々がいたことを示している。

解答: 2.が誤り。この問題には写真が掲載されていて、慣れていない人はそれだけでビビルのです。しかし、何の変哲もないたわいのない問題なのです。
よく読んで下さい。雑徭は夫役です。つまり、直接労働することなので、こんなものを運ぶわけにはいかないでしょう。
 

次にセンター試験では高札そのものが取り上げられたこともあります。以下の問題にチャレンジして下さい。
 
94年センター本試験 第1問

* この問題に出てくる写真aというのは、五榜の高札のことで、「定 きりしたん邪宗門の儀は、堅く御制禁たり。もし不審なるものこれ有らば、其筋の役所へ申し出べし。御ほうび下さるべく事。慶応四年三月 太政官(以下略)」という読み下し文が掲載されています。

問7 写真aは、五榜の高札とよばれる5枚の高札の1枚である。この高札に関連して述べた文として誤っているものを、次の1〜4のうちから一つ選べ。

1. 高札は、町や村の人の集まるところや通行人の多いところに立てられた。
2. この高札は、江戸時代のキリスト教禁止政策を継承して立てられた。
3. この高札を含む五榜の掲示は、明治新政府の民衆統治の基本政策とされた。
4. この高札は、大日本帝国憲法で信教の自由が認められるまで掲げられた。

解答: 4.が誤り。1873年に外国からの抗議などで黙認されています。これなども先に示した問題と同様に、単にビビらせただけのものです。
 

それでは、ここでシミュレーションです。皆さんは、先に記した加茂遺跡の史料内容をもう一度よく読んで下さい。
いいですか?それじゃいきますよ。

 
問題文

 今年(2000年)になって石川県加茂遺跡から、古代の農民支配に関する興味深い高札が出土した。以下は、この史料の一部を読み下したものである。この史料に関連して述べた文として誤っているものを、次の1〜4のうちから一つ選べ。

史料
一、 田夫の朝は、寅時(注1)前に田に入り、夕べは戌時(注2)に私宅に還ること。
一、 田夫が意のままに魚酒を喫う(くらう)ことを禁制する。
一、 五月三十日より前に田植えを終了し、申上すること。
一、 桑を植え養蚕することのない百姓を禁制すべきこと。

注1:寅時とは午前4時頃  注2:戌時とは午後8時頃


1. 農民は朝早くから夜遅くまで働くよう求められていた。
2. 農民は農繁期に魚や酒を食べたり飲んだりせず、働くよう求められた。
3. 田植えの終了期間が決められていたが、終了報告はしなくてもかまわなかった。
4. 家ごとに、桑を植え、養蚕を行うよう求められていた。

解答: 3.が誤り。「申上すること」とあるように、田植えが終了すれば、報告する義務があった。
 


こんな風に問題は作成できます。何度か書きましたが、センター試験は、写真などを上手に使って君たちをビビらせますが、史料をよく読んで解答して下さい。